年末年始の里帰りや休暇での旅行を予定している方も多いこの時期、
世界中の航空会社を震撼させた太陽フレア(宇宙線)の影響について注目されている方も
多いのではないでしょうか。
2025年11月、航空機大手エアバス社は、主力機である「A320ファミリー」
約6,000機に対して、飛行制御システムの緊急改修が発生しました。
その原因とされたのが、遥か彼方から飛来する「太陽フレア(宇宙線)」。
この問題は、特定の飛行制御コンピューター(ELAC)のメモリ(半導体)が、
高エネルギー粒子と衝突することで誤作動(ビット反転)を起こしてしまい、
最悪の場合、パイロットの意図しない機首の急降下を引き起こす可能性があるようで
これは、2025年10月30日に発生した、米ジェットブルー航空(JetBlue)のA320型機での
インシデントが発端だったもよう。
同機が巡航中に突然、意図しない急降下(ピッチダウン)を起こした事例の調査から、
特定のハードウェアとソフトウェアの組み合わせにおける「太陽フレア耐性」の脆弱性が
特定されたそうです。
過去、2008年10月にも、カンタス航空72便がシンガポールからオーストラリアへ飛行中、
突如として自動操縦が解除され、機体が2度にわたり勝手に急降下(ピッチダウン)した
という事件もあり、世界中の該当航空機に対して、注意喚起がなされたというわけです。
では、そもそも今回の原因とされた「太陽フレア」や「宇宙線」とは、具体的に何なのでしょうか。
●太陽フレア:
太陽の表面で起きる巨大な爆発現象です。この爆発により、大量の電磁波や高エネルギーの粒子(太陽プロトンなど)が宇宙空間に放出される。
●宇宙線(銀河宇宙線):
太陽系外の超新星爆発など、さらに遠くの宇宙から飛来する高エネルギー粒子です。今回のエアバスの事例では、太陽フレアの活発化に伴い増大した高エネルギーの中性子線などが、航空機の電子機器に悪影響を及ぼしたと考えられているそうです。
では、なぜ「空」と「半導体」は弱いのでしょうか。
地球は厚い大気のバリアと地磁気に守られています。
しかし、航空機が飛ぶ高度約1万メートルは、地上の数百倍もの中性子線が降り注ぐ、宇宙線が最も強くなる「フォッツァー極大」と呼ばれる領域に近接しています。
半導体チップは、電流によって「0」か「1」のデータを保持しています。そこに高エネルギーの中性子線が衝突すると、一時的にメモリ内の電子状態が変わり、「0」だったはずのデータが「1」に、あるいはその逆の状態に勝手に書き換わってしまうことがあるとのこと。
これが、一部報道もされていたSEU(シングル・イベント・アップセット)と呼ばれる現象。
このSEUが、たまたま飛行機を制御する「機首下げろ」という命令コードを格納する場所に発生したことで、今回の様な重大事故のリスクが露呈したというのです。
さて、今月の「気になる★数字」
「エアバス6000機に宇宙線が影響。
実は生活にも影響していた太陽フレア?!」
についてみてみましょう。
このニュースを見て、世界で該当機種が6000機というのを見て、「日本だけ?」などと、
意外と数字的に小さいと感じた人もいたのではないでしょうか。
しかし、「6,000機」という数字は、単なる欠航便の数をはるかに超えた、世界の空の根幹を揺るがす数。
現在、世界で運用されている商業用ジェット旅客機は約2万5,000機〜3万機程度(推計)。
となると今回、世界のジェット旅客機の約20%〜25%が、緊急改修の対象となったことになります。
特にA320ファミリーは、座席数150〜180席クラスの「ナローボディ機」として、
世界中の国内線や近距離国際線の高頻度運航を支える「空のワークホース」です。
特に、日本はこの機種に依存している国のひとつで、国内LCC(格安航空会社)や全日空(ANA)は
A320を主力機として運用。Peach Aviationやジェットスター・ジャパンなどは、
全保有機がA320系列であったため、運航停止や大幅減便となり影響も大きかったのです。
また、パイロット資格(型式限定)の問題もあり、急に代替機を用意しても、
その機体を操縦できるパイロットがいなければ動かせないという問題もあり、影響が大きかったということです。
実は、半導体を使うあらゆる機器が、宇宙線の影響を常に受けています。
2003年ベルギー電子投票の得票数が宇宙線によるビットフリップが原因で、ある候補者に4096票が加算されてしまったという事件や、2024年には大規模な太陽嵐発生で地球の磁気圏が大きく乱され、
航空機、船舶、地上の産業機器に至るまで、GPSの測位精度が低下や、
短波無線(HF通信)が一時的に途絶したりする広範囲な影響が出たもよう。
日常、気づかないうちに、私たちのスマートフォンやパソコンが時折フリーズするのも、
もしかしたら宇宙線の影響かもしれないといわれています。
太陽フレアは、約11年周期で強弱を繰り返す「太陽活動周期(ソーラーサイクル)」に従ってるようで
現在2019年12月ころから始まった「第25周期」の期間中だそうです。
極大期の予想では20234年末~2026年初頭の真っ只中。
しかも当初の予測よりも太陽活動が早く、かつ強くなっていて、大規模な太陽フレアが活発に発生しやすい時期が続いているそうでまだまだ注意が必要だそうです。
データセンター、自動運転、そしてもちろん空の安全。今回の事故をきっかけに、人類が宇宙とテクノロジーの進化を両立させるための、より強固な対策が講じられることを期待してやみません。
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